尾方 優香 (Yuka Ogata) トレイニー会員

日本ライフスタイル医学会

会員インタビュー

尾方 優香 (Yuka Ogata) 先生
研修医(千葉県)

LM と出会ったきっかけ、また何故 LM が大切だと考えましたか?

ライフスタイル・メディスン(LM)との出会いは、総合内科研修中に宮本先生からのレクチャーを受けたことがきっかけでした。私は幼少期から食べることや料理をすることが大好きで、シェフを志した時期もありました。医学生時代には、カリフォルニアにてCulinary Medicineの現場を見学する機会があり、慢性疾患に対し医師が栄養の視点からアプローチを行い、医学的なレクチャーの後には、実際にシェフがキッチンスタジオで調理のデモンストレーションを行うという、医療と食の融合した風景に深く感銘を受けました。「医療と食の架け橋になりたい」という思いは、私の中で長くあたためてきたテーマです。そして、LMとの出会いは、その思いを医学的に具現化できるかもしれないという希望を抱かせてくれました。

近年ではSNSやメディアにおいて健康や食事に関する情報が氾濫し、その信頼性が問われることも少なくありません。医療者である私たちは、生活習慣が非感染性疾患(NCD)のリスクに直結することを知ってはいても、医学生時代に「生活習慣をどのように改善していくか」という実践的な知識を体系的に学ぶ機会は限られていました。だからこそ、科学的根拠に基づいた正確な情報を医師の立場から発信していくことが重要であり、LMはまさに「医学の知」と「日常の習慣」をつなぐ架け橋となると感じています。

LM を推奨する中で、Challenge がありましたら教えてください。

「健康的な食事を心がけ、適度に運動し、ストレスをためないようにする」。多くの人がその大切さを理解していますが、日常の中で実践することは決して容易ではありません。実際に医療現場でLMを取り入れようとすると、いくつもの課題に直面します。中でも大きな壁は、医師自身が「予防」に十分な時間を割けないという点です。外来診療では、目の前の症状への対応に追われ、生活習慣にまで丁寧に踏み込む余裕を持つことが難しいのが現状です。

私の外来では管理栄養士と連携し、積極的に食事指導の導入を試みていますが、1対1の対応には限界があると実感しています。だからこそ、LMの真価は「共創」にあると考えています。医師、管理栄養士、理学療法士、心理士、シェフなど、専門職が横断的に連携することで、より多くの人に科学的に裏づけられた知識を届けることができるようになります。その連携の先に、病院という枠を超えた「予防の文化」が根付く社会の実現を目指しています。

もう一つの課題は、「正しい情報をどう届けるか」という点です。現在、SNSやネット上にはさまざまな健康情報が溢れていますが、そのすべてが正確とは限らず、誤った情報が広まるリスクもあります。だからこそ、医療者がエビデンスに基づいた情報を、わかりやすく、かつ責任あるかたちで発信することが、今後ますます重要になってくると感じています。LMは決して“特別な医療”ではなく、日々の「食べ方」「動き方」「休み方」「考え方」といった選択をお伝えする“日常生活に寄り添う医療”だと私は思います。

LM の6つのテーマ(運動、食事、ストレス、禁煙アルコール減、睡眠、コミュニティ)の中で、自分で強いと思う分野、また弱いと思う分野を教えてください。また ご自分で弱いと思う分野は、どのように勉強しているか教えてください。

私が最も親しみを感じ、実践できているのは「食事」です。日常でも、白米から玄米に切り替えたり、食材の選び方を工夫したりと、自分の生活の中でも意識をしています。外来では、1日の野菜摂取量や外食の頻度などを問診するようにしています。例えば高血圧の患者さんには、具体的な食材や調味料を交えてDASH食の提案をすることもあり、食を通して患者さんに寄り添うことができるのは、自分の強みの一つだと感じています。

一方で、「ストレスマネジメント」は私にとって難しいテーマです。食事であれば「何をどれだけ食べているか」というように、客観的に評価できますが、ストレスは、同じ状況でも人によって受け取り方がまったく違います。目に見えないからこそ、評価しづらく、アプローチも複雑だと感じています。取り組みとしては、外来で配布する問診票に「リラックスできる時間があるか」「落ち込んだときにどう対処しているか」「日々の中で“生きがい”を感じているか」など、ストレスの状態を間接的に把握できるような項目を入れています。数値化は難しくても、少しずつ患者さんの背景に近づいていくきっかけになればと願っています。また、ストレスについての理解を深めるために、LM関連の教材や学会、ジャーナルクラブなどを通じて学んでいけたらと思っています。

LM が日本に浸透した時に、どのようなメリットがあるのか、実現した時の未来像をお聞かせください。

LMが日本に広く浸透したとき、

・健康的な選択が「努力」ではなく「自然な日常の一部」となる

・心と体を大切にする意識が生活に根づく

こうした個人の小さな「気づき」と「選択」の積み重ねが、やがて社会全体に広がり、日本全体の健康増進につながるというメリットがあると思います。実現した時には、「医学の知」と「日常の習慣」をつなぐ架け橋となって私たちの生活にLMが溶け込んでいる未来を想像します。

たとえば、今ではすっかりおなじみの「マタニティマーク」や「特定保健用食品(トクホ)マーク」がります。マタニティマークを見て自然と席を譲るように、トクホマークを見て健康的な商品を選ぶように、たった一つのマークが、人の行動を優しく変えていく力を持っていることは、私たちはすでに経験しています。もしLMマークが、スーパーの商品やレストランのメニュー、職場の健康支援制度、地域の運動プログラムなど、あらゆる生活シーンに溶け込んでいたら、「今日はこれを選んでみよう」「ひと駅分歩いて帰ろうかな」といった、LMマークが私たちの選択をやさしく後押しする存在になっているかもしれません。「今日という一日を、少しでも自分の体や心に目を向けられる時間に」。そんな積み重ねが、社会全体の健やかさにつながっていくことを願いながら、これからもLMの実践と普及に取り組んでまいります。

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この記事を書いた人

Japanese Society of Lifestyle Medicine (JSLM) は、⽶国の学会に集まった⽇本のNCDの改善に関⼼のある医療従 事者により2015年より準備が始まり、2017年に組織されました。JSLMは 医師、公衆衛⽣専⾨家、医療リサーチャー、医療政策に関わる専⾨家、医 療教育者、看護師、栄養⼠、ソーシャルワーカー、理学療法⼠、臨床⼼理 ⼠、ヘルスコーチ、⻭科医、薬剤師等、幅広い分野の専⾨家で組織されています。

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